転職エージェントはなぜ無料?求職者から費用を取れない法律と企業が払う手数料の上限

転職エージェントに登録しようとして、「完全無料」という表示に引っかかった人は多いはずです。面談をして、求人を探して、日程調整までしてくれるのに、なぜお金がかからないのか。あとから請求されるのではないか、という不安はもっともです。
結論からいうと、転職エージェントが求職者から費用を取らないのは、サービス上の方針ではなく職業安定法で原則として禁止されているからです。この記事では、その条文と例外、代わりに費用を払っている企業側の手数料の上限、そして無料の仕組みが紹介される求人にどう影響するかまで、法令と厚生労働省の資料をもとに整理します。
法令はe-Gov法令検索の条文、数値は厚生労働省の公表資料で確認しています。独自の順位付けや満足度調査は行っていません。
転職エージェントが求職者に費用を請求しない理由は法律にある
転職エージェントの仕事は、法律上は「有料職業紹介事業」にあたります。職業安定法第4条は、職業紹介を求人と求職の申込みを受けて雇用関係の成立をあっせんすることと定義しており、手数料や報酬を受け取るものを有料の職業紹介と呼んでいます。この事業には手数料の受け取り方について厳しいルールがあり、そのひとつが求職者からの徴収の禁止です。
職業安定法第32条の3第2項が求職者からの手数料を禁じている
職業安定法第32条の3第2項は、有料職業紹介事業者は求職者からは手数料を徴収してはならない、と定めています。ただし書きとして、求職者の利益のために必要と認められるときとして厚生労働省令で定めるときに限り、徴収を認めています。
つまり「無料」は各社の善意やキャンペーンではなく、法律が決めた原則です。例外に当たらない限り、登録料や面談料、成約時の謝礼といった名目で求職者に請求することはできません。第32条の3第1項は「いかなる名義でも」という言い方で、名目を変えた徴収も含めて規制しています。
そもそも転職エージェントは厚生労働大臣の許可事業
職業安定法第30条第1項は、有料の職業紹介事業を行おうとする者は厚生労働大臣の許可を受けなければならないと定めています。転職エージェントは誰でも名乗れる肩書きではなく、許可を受けた事業者だけが行える仕事です。
許可を受けた事業者は、厚生労働省の人材サービス総合サイトで検索できます。費用を請求されて不安になったときに、相手が許可事業者かどうかを確かめる手段がある、というのは覚えておいて損のない点です。確認の手順はあとの章で説明します。
| 条文 | 定めていること | 求職者にとっての意味 |
|---|---|---|
| 職業安定法 第30条第1項 | 有料職業紹介事業には厚生労働大臣の許可が必要 | 許可の有無を公的サイトで確認できる |
| 職業安定法 第32条の3第1項 | 決められた種類・額か、届け出た手数料表によるもの以外は、いかなる名義でも受け取れない | 名目を変えた請求も規制の対象 |
| 職業安定法 第32条の3第2項 | 求職者からは手数料を徴収してはならない(省令の例外あり) | 原則として費用はかからない |
| 職業安定法施行規則 第20条第2項 | 求職者から徴収できる例外の条件 | 芸能家・モデルと、年収が一定額を超える専門職だけ |
例外として求職者から手数料を取れるケース
職業安定法施行規則第20条第2項が、第32条の3第2項のただし書きの中身を定めています。対象は大きく2つのグループに分かれ、どちらも就職後6か月以内に支払われた賃金の100分の11(免税事業者は100分の10.3)に相当する額以下という上限がついています。一般的な会社員の転職で、ここに当てはまることは多くありません。
芸能家とモデルの職業に紹介された場合
ひとつ目は、芸能家とモデルの職業に紹介された求職者です。施行規則は芸能家を、放送番組や映画、寄席、劇場などで音楽や演芸などの芸能を提供する者と説明しています。モデルは、ファッションショーなどの催事への出席や、新聞・雑誌の写真、美術品の創作の題材となる者です。
こちらには年収の条件がついていません。芸能やモデルの紹介所から手数料の話が出たときは、この例外に基づくものかどうか、上限を超えていないかを確かめる必要があります。
年収700万円を超える経営管理者・科学技術者・熟練技能者の場合
ふたつ目は、科学技術者、経営管理者、熟練技能者の職業に紹介された求職者で、賃金が厚生労働大臣の定める額を超える人です。厚生労働省の告示は、この額を就職後1年の期間において700万円またはこれに相当する額としており、平成14年2月16日から適用されています。
いわゆるハイクラス転職の一部がこれにあたり得ますが、法律上は徴収して「よい」という許容であり、実際に徴収するかどうかは事業者が決めることです。熟練技能者は、技能検定の特級や一級に合格した人が持つ技能、またはそれに相当する技能を活かして働く人を指します。
- 芸能家・モデルの職業 … 年収の条件なし
- 科学技術者の職業 … 就職後1年で700万円相当を超える場合に限る
- 経営管理者の職業 … 同上
- 熟練技能者の職業 … 同上
- いずれも上限は就職後6か月以内に支払われた賃金の100分の11(免税事業者は100分の10.3)
一般的な職種で年収700万円未満の転職なら、求職者が手数料を払う例外には当てはまりません。「登録料」「サポート料」を求められたら、まず手を止めて確認してください。
費用を払っているのは求人企業で、上限も法律で決まっている
求職者が払わない代わりに、手数料を払っているのは人を採用する企業です。企業から受け取れる手数料にも決まりがあり、職業安定法第32条の3第1項は、省令で定める種類と額の手数料を受け取る「上限制」と、あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づいて受け取る「届出制」の2つだけを認めています。どちらの方式でも、求職者に負担を回すことはできません。
上限制手数料は賃金の11%が基準
上限制の中身は、職業安定法施行規則の別表に書かれています。求人の申込みを受理したときの受付手数料は1件710円(免税事業者は660円)が最高額です。紹介手数料は、支払われた賃金額の100分の11(免税事業者は100分の10.3)が基本の最高額です。
同じ人が6か月を超えて雇われた場合は、6か月間の賃金が計算の基準になります。さらに期間の定めのない雇用で6か月を超えた場合は、100分の11で計算した額と、臨時の賃金や3か月を超える期間ごとの賃金を除いた額の100分の14.8で計算した額のうち、大きいほうが最高額です。
| 種類 | 手数料の最高額(課税事業者) | 誰から受け取るか |
|---|---|---|
| 受付手数料 | 求人の申込み1件につき710円 | 求人者 |
| 紹介手数料(基本) | 支払われた賃金額の100分の11 | 求人者または関係雇用主 |
| 6か月を超えて雇用 | 6か月間の賃金の100分の11 | 求人者または関係雇用主 |
| 無期雇用で6か月を超えて雇用 | 上の額と、臨時・3か月超ごとの賃金を除いた6か月分の100分の14.8の大きいほう | 求人者または関係雇用主 |
届出制手数料なら上限制とは別の額になる
もうひとつの届出制は、事業者が手数料の種類や額を定めた手数料表を作り、厚生労働大臣に届け出て、それに基づいて受け取る方式です。施行規則第20条第5項は、届出制手数料届出書で届け出ることを定めています。
ネット上でよく見る「転職エージェントの手数料は年収の何割」という相場は、この届出制の手数料表や個別の契約で決まった額を指していることが多く、法律で一律に決まった数字ではありません。数字だけを見て判断せず、上限制と届出制の2つの枠組みがあると知っておくと、情報の読み違いを防げます。
手数料の相場という数字を見かけたら、次の点を確かめると読み違いを防げます。
- 上限制の話か、届出制の手数料表の話か
- 課税事業者の額か、免税事業者の額か
- 何か月分の賃金を基準にした数字か
- 払うのは求人企業であり、求職者ではないこと
企業から受け取る手数料は「上限制(省令の別表)」か「届出制(大臣に届け出た手数料表)」のどちらか。求職者から取れないのは同じで、違うのは企業側の額の決まり方です。
無料の仕組みが、紹介される求人に与える影響
求職者が無料で使える裏側には、企業が採用のたびに手数料を払うというお金の流れがあります。この構造そのものに問題があるわけではありませんが、仕組みを知らないまま使うと、紹介される求人の偏りや、応募を勧められる理由に気づきにくくなります。ここでは、条文と別表の定めから素直に導ける範囲の注意点に絞って説明します。
手数料を払える企業の求人に偏りやすい
エージェント経由の採用には手数料がかかるので、エージェントに出てくる求人は、その手数料を払ってでも採用したい企業のものになります。逆にいえば、採用費を抑えたい企業の求人は、企業の採用ページや求人サイト、ハローワークにだけ出ていることがあります。
エージェントの紹介だけで市場全体を見たと思わないことが大切です。気になる企業があれば、公式の採用ページも合わせて確認してください。
- エージェント経由で出ている求人
- 企業の採用ページにだけ出ている求人
- 求人サイトに直接掲載されている求人
- ハローワークに出ている求人(無料の職業紹介)
手数料は採用が決まり、賃金が支払われてから発生するのが基本
施行規則の別表は、紹介手数料を、徴収の基礎となる賃金が支払われた日以降に求人者から徴収すると定めています。つまり事業者の収入は、紹介した人が実際に採用され、働き始めて賃金が支払われることと結びついています。
この構造は、事業者に「採用まで進めたい」という動機を与えます。担当者から応募を強く勧められたときは、その求人が本当に自分の条件に合っているかを一度立ち止まって考えるくらいの距離感が、ちょうどよいといえます。
無料の裏側を知ることは、エージェントを疑うためではなく、上手に使うためです。紹介は判断材料のひとつと割り切り、最後に決めるのは自分、と考えておきましょう。
費用を請求されたときに確認すること
転職の相談サービスには、職業紹介ではなくキャリア相談やコーチングとして有料で提供されているものもあります。これらは職業紹介とは別のサービスなので、料金が発生すること自体は違法ではありません。問題になるのは、職業紹介を名乗りながら、例外に当たらない求職者に費用を請求するケースです。まずは相手のサービスがどちらにあたるのかを見分けます。
| サービスの種類 | 求職者の費用 | 根拠 |
|---|---|---|
| 転職エージェント(有料職業紹介) | 原則かからない(例外あり) | 職業安定法 第32条の3第2項 |
| ハローワーク(公共職業安定所) | かからない | 職業安定法 第8条(無料で公共に奉仕する機関) |
| 地方公共団体の職業紹介 | かからない | 職業安定法 第29条(無料の職業紹介事業) |
| キャリア相談・コーチング | かかることがある | 職業紹介ではない別のサービス |
人材サービス総合サイトで許可を調べる
相手が職業紹介を名乗っているなら、まず厚生労働省の人材サービス総合サイトで、事業者名や許可番号を検索してください。許可を受けた職業紹介事業者であれば、ここで見つかります。見つからない場合は、その時点で費用を払う前に相談先へ確認するのが安全です。
- 事業者の正式な名称を控える(サービス名ではなく会社名)
- サイトやメールに書かれた許可番号を控える
- 人材サービス総合サイトで事業者名か許可番号を検索する
- 見つからない、または内容が違うときは、費用を払わずに確認する
検索する前に、次の情報を手元にそろえておくと確認が早く済みます。
- 請求された金額と名目(登録料、サポート料など)
- 請求の時期(登録時、面談後、内定後など)
- 請求の連絡が来たメールや書面
手数料の額と負担する人の明示を求める
職業安定法施行規則第20条第3項は、職業紹介に関する役務の種類ごとに、手数料の額とその手数料を負担すべき者が明らかになる方法で明示することを定めています。費用の話が出たら、何に対していくらで、誰が払う手数料なのかを書面で示してもらってください。
曖昧な説明しか返ってこない場合は、その場で契約しないことが一番の防御になります。キャリア相談など職業紹介以外の有料サービスであれば、職業紹介とは別の契約であることを確認したうえで判断しましょう。
職業紹介なのか、有料の相談サービスなのか。名前ではなく契約の中身で判断するのが、トラブルを避けるいちばん確実な方法です。
この記事は法令の一般的な内容を整理したもので、個別のトラブルについての法的な判断ではありません。実際に請求を受けて困っている場合は、都道府県労働局や消費生活センターなどの公的な窓口に相談してください。
よくある質問
転職エージェントの費用について、検索で多く見かける疑問を取り上げます。回答は職業安定法と同法施行規則、厚生労働省の告示にもとづいていますが、個別の契約内容によって扱いが変わる場合があります。気になる点は、利用している事業者に書面での説明を求めてください。とくに費用の話が出たときは、その場で判断しないことが大切です。
転職が決まったら求職者に成功報酬を請求されますか
原則として請求されません。職業安定法第32条の3第2項は、有料職業紹介事業者が求職者から手数料を徴収することを禁じています。例外は施行規則第20条第2項に定められた、芸能家・モデルの職業に紹介された人と、就職後1年で700万円相当を超える経営管理者・科学技術者・熟練技能者の職業に紹介された人だけです。
その場合も、就職後6か月以内に支払われた賃金の100分の11(免税事業者は100分の10.3)以下という上限があります。一般的な職種での転職なら、成功報酬を払う必要はありません。
途中で辞退したら違約金を取られますか
職業安定法第32条の3第1項は、有料職業紹介事業者が、決められた手数料以外をいかなる名義でも受け取ることを禁じています。求職者からの徴収は第2項で原則禁止されているので、違約金という名目であっても、職業紹介に関して求職者から金銭を受け取ることは規制の対象になります。
辞退の連絡は早めに丁寧に伝えるのがマナーですが、それによって費用を払う義務が生じるわけではありません。請求を受けたら、手数料の根拠と許可の有無を確認してください。
企業はエージェントにいくら払っているのですか
額は、事業者がどちらの方式をとっているかで変わります。上限制の場合、施行規則の別表により、紹介手数料の最高額は支払われた賃金額の100分の11が基本です。6か月を超える雇用では6か月分の賃金が基準となり、無期雇用で6か月を超えるときは100分の14.8で計算した額との比較で大きいほうが上限です。
届出制の場合は、事業者が厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づくので、上限制とは別の額になります。ネット上の「年収の何割」という数字は、法律で一律に決まったものではない点に注意してください。
無料なのに使うデメリットはありますか
費用面のデメリットはありませんが、構造上の注意点はあります。エージェント経由の採用には企業側に手数料がかかるので、紹介される求人は、手数料を払ってでも採用したい企業のものになります。企業の採用ページやハローワークにだけ出ている求人は、エージェントからは紹介されません。
また、紹介手数料は賃金が支払われた日以降に徴収するのが別表の基本なので、事業者には採用まで進めたい動機があります。紹介は判断材料のひとつと考え、複数の経路で求人を見比べるのがおすすめです。
まとめ
転職エージェントが無料なのは、職業安定法第32条の3第2項が、有料職業紹介事業者に求職者からの手数料徴収を原則として禁じているからです。例外は芸能家・モデルと、就職後1年で700万円相当を超える経営管理者・科学技術者・熟練技能者だけで、その場合も就職後6か月以内の賃金の100分の11以下という上限があります。
代わりに企業が、上限制か届出制のルールに沿って手数料を払っています。その構造を知ったうえで、紹介は判断材料のひとつと考え、費用を請求されたら人材サービス総合サイトで許可を確かめてください。選び方の考え方は選び方のカテゴリ、面談の準備は使い方・面談のカテゴリ、各社の比較はサービス比較のカテゴリでまとめていきます。